妄想

流せない、

SNSで嘗てのの恋人が何やら成功を収めたらしいことを目にして少し肩が重くなったような気がした。 四捨五入して三十路に程近い年齢になり、小さくて古い生活感のあるアパートでティーパックを揺らして淹れたルイボスティーを啜る私は今まで何をしてきたのだ…

卑小

あの日私はやっぱり少し弱気になってメッセージを送れないでいた。自分の単純な一言が相手に気を遣わせてしまうかもしれないし、相手がそのことで私を疎遠にしてしまうのがたまらなく嫌だったから。意味もなくスマートフォンの電源を入れたりして時間が経っ…

人に好かれた私は魚拓のように(人拓とでも言うべきか)人に刻まれて、中身のないまま日光に焼けて朽ちていってしまうのだろう。 私は今幸せで、数年付き合って結婚も間近じゃないかしら?と思える恋人がいて、仕事もそこそこ軌道に乗ってきて給与も伸びつつあ…

彼方の貴方

つい先日ポストに投函したばかりの淡い水色の封筒が宛先不明で我が家に戻ってきたのは年始も過ぎて日常が流れ始めてからだった。 宛先は自分がずっと想いを寄せている相手で、今は東京で働いているらしかった。実はというと数年前からめっきり返事がこなくな…

疲弊

目覚めるともうこんな時間だった、なんてことはもうよくあることになってしまって、それが悲しくて快く起きられない。早く起きて1日を充実させようなんて叶わない願いになりつつある。 中学生や高校生の頃は朝日が登る前に起きて支度して学校へ向かっていた…

薄氷

手を擦り合わせて摩擦熱を生み出す。厳しい寒さに対して微かに反抗しながら耳元で流れる音楽に耳を傾ける。友人から「あなたらしくない」と言われたハードコアなロックが私の脳を刺激する。 冬が寒いのは当たり前だけれど、年に数回ある泣いちゃいたいほど絶…

精製

夜は1人でこっそり網を編む。毎日毎日少しずつ細かく細かく編み込んでいく。見たところもう網目は見えていないのだけれど、極僅かな隙間からポタリポタリと雫が滴る。滴ったものは「これが無色透明である」と胸を張れるくらいで、日に日に純度を高めている。…

寒さに負けるな

夏が終わりを告げようとしている。陽が傾くと肌寒い風が僕を包む。 駅から家まで歩いて20分。普段は音楽を聴いたりしながら歩くのだけど、今日はどうも音楽といった気分では無かった。 音楽は聴き始めた最初は人間を感じるのだけど、所詮録音された楽曲なの…

僕の神様

神様に祈ることを続けて10年ほどが経った。 神様といっても僕は無宗教だし固定の神様みたいな何かに拝む趣味もなかった。神社に行ったら賽銭を投げてお参りはするけれどそれは形だけで、こんな形で神様に通じるとは思わなかった。 僕は子供みたいで恥ずかし…

夜になると考えること

誰も私なんか好きじゃ無いくせに。 虚空にポツンと言葉だけが残る。 さっきまで私の上で必死に腰を振っていた彼もお疲れで、深い眠りについていたようだった。規則的な寝息が私の肌を擽る。首元に付けられた消えない内出血。夏の蒸し暑い中でも私の存在を感…

ネオン、アルコール、夜の街

お酒に飲まれたふりをして2人で夜の街に隠れた。私は敢えていつも飲まないワインに手を出して、演技でも無くヘロヘロになっている。こうでもしなきゃ彼の腕に縋ることも出来なかった。そういうことを言うと「意外と純情なんだね」と小馬鹿にされるから言わな…

妄想的四月馬鹿

「実は前から好きだった」 四月馬鹿に相応しい言葉を目の前の彼に言われて、私はちょっと閉口してしまった。私は嘘があまり得意ではない。 「4月1日だからと言って、ここぞと嘘を吐きまくる人は好きじゃありません」 彼はそんな私の対応をわかっていたかの…

平成29年度の終わり

弟が荷造りをしている。明日入寮するみたいだ。家から出て行くといってもその先が所詮北海道内なので何も欠けていく感じがしなかった。 思えば東京で就職をした姉が出て行った時も何もイベントらしいことがなく、気付いたらいなくなっていたような印象だった…

超妄想電波神話

今の世の中、電波に切り離された時間は睡眠中くらい。睡眠のなかでもとりわけ深い部分でしか人間は電波から解放されない。何かしら世間に通じるような手段としての電波を日々送受信している。 それはきっと害悪だ。 電波は我々を犯している。LINEの既読がつ…

横顔

絵を描くのが好きだ。これは小さい頃からそう。姉が絵を描くのが好きだったので、自然と私もそうなった。後に姉は世間一般でいう「オタク」になる。 私は今でも絵を描くのが好きだ。だけれど姉のような「オタク」にはなりきれなかった。アニメを見るのもあま…

微熱

布団の上というのは何も刺激が無くて単調でつまらない。関節が軋むし熱でポーッとするので思考する暇もないけれど睡眠で1日の大半を溶かしてしまうのは勿体ないと感じる。 朝になると母が私の部屋に来て「調子はどう?」と問いかける。私はとっくに起きてい…

妄想的断捨離論

最近、どんどん部屋が汚くなる。 元々自分のものではないから手が加えられない部分があって、そこの上に自分のものを重ねていくから綺麗にしようがない。 机の上には本が塔を作っているし、洋服はタンスに収まらないからイスに山が出来ていて、ベッドの上に…