寒さに負けるな

夏が終わりを告げようとしている。陽が傾くと肌寒い風が僕を包む。

 

駅から家まで歩いて20分。普段は音楽を聴いたりしながら歩くのだけど、今日はどうも音楽といった気分では無かった。

音楽は聴き始めた最初は人間を感じるのだけど、所詮録音された楽曲なので、新鮮味というかそういったものに欠ける。このタイミングでブレスをとるとか、このタイミングで裏声を使うだとか、慣れてしまうとそういったところが生じゃなくて少しさみしい。

 

ふと思い立ってGoogleに「クリスマスまで」と問いかけた。

Googleは無機質に返答を告げる。98日。丁度3桁に終わりを告げたらしい。この歳になると嫌でも焦ってしまう。恋人がいなきゃ生きていけないわけでもないのに、恋人がいないと寂しい人間だと認識されるのが嫌だなあと思った。

去年は幸運なことに恋人がいたけれど、結局僕の我儘についていけなかったらしく、クリスマスを終えて数日で「結局私のこと好きじゃないんでしょう?」と言われてしまった。好きじゃないなんてことはないけれど、定期的に好きと言わなきゃならないとか好意を示さなきゃならないとかの義務はあるのか?と思ってしまった。僕が微妙な顔をして見つめていたら、当時の恋人は如何にも苛つきましたというような表情で冷たく僕を見ていた。

根本的に人と付き合うのが向いてないのかもしれない。

 

あまり意識していなかったけれど、恋人がいない期間が9ヶ月ほどになっているということか。

あまり間が空きすぎてもいけない気がするし、かといってあまり間が無さすぎても節操がないような感じでよろしくないと思う。どのくらい空けるのが正しいのだろう。

 

ふと同じ部活の、最近仲がいい女を思い浮かべた。大学に入ってから男と縁がないと言っていたし、あいつと1番仲良い異性は恐らく僕だし、告白すれば付き合えそうだなあなんて考えた。

こんなことを女に話すと「え〜あんたが私を?え〜きもい!」と一蹴されそうだな。女は安易にキモいと言うので発言自体には傷付かないだろうけど、仲が良い女友達を殺してしまうのはちょっと惜しいなと思う。

 

別にとりわけセックスがしたいわけじゃないし、可愛い彼女を他人に自慢したいわけじゃない。強いて言えば淡々と勉強して研究して地味に生きている僕を認めて欲しいくらいだし、可愛くなくても、おっぱいが大きくなくてもいい。

 

「恋人がほしい…」

 

呟いた言葉通り、恋人という僕の人生で稀有な存在が欲しいのだと思う。

何もしなくていい、ただ何をするでもなく寄り添っていたい。だって北海道の冬は厳しいのだもの。

 

考え事をしていたらいつのまにか家に着いていた。自分の部屋のドアノブに手をかけると、最後の最後に追い打ちをかけられた気がする。

僕は安易に恋人を求めないぞ。