北海道はもう秋が先回りしてきたみたいに涼しくて、「平成最後の夏」と呼ばれるものも8月という暦で最後なのかなと思った。
今日は平成最後の夏を締めよう!という彼の誘いにのって、夜日付を跨ぐかという時間に店前に突っ立っている。
「私、食べ物のためにこんなに並ぶの初めてだわ」
「僕も。本当にこんなに並ぶんだねえ」
とても人気なお店ということは小耳に挟んだ程度だったので、2時間ほど外で突っ立っている現状が可笑しくてならなかった。まさかこのためだけに人気のない道端で夜風に晒されまくることになるとは。しかも何に並んでいるかというとパフェなのである。オシャレにいうとパルフェ。アイスやら生クリームやらが百合の花みたいな独特なガラスの器に盛られたソレだ。
札幌には締めパフェ文化というものがあって、お酒を飲んだ締めにラーメンよろしくパフェを喰らう。インターネットにのせられているのかもしれないけれど、成る程そういう文化もあるのかとここぞとばかり若い男女がこぞってパフェを喰らう。パフェを喰らうことこそステータスだと言わんばかりに、TwitterやらInstagramやらでパフェの写真が載せられる。
私もそんな文化にのせられた1人だけれど、ここまで待たされると笑ってしまう。たかがパフェだ。パフェを待ち続けた結果終電さえも逃してしまう。2人して「パフェで終電を逃すなんて馬鹿だねえ」と笑う。若い男女はこういうのをスパイスに恋愛をするのだろうけれど、私にそういう気は一切燃え上がらなかった。折角の平成最後の夏なのに。
「あ」
彼が声を漏らしたので、フイとそちらを見る。肌寒いのに半袖を着ていて寒そうだ。
「ねえ、0時だ」
「うわあ、かれこれ3時間は経ったんだねえ」
「平成最後の夏が終わっちゃったねえ」
「え?」
言われればそうだ。並び始めたのが8月31日だったのだから、日付が変わった今日は9月1日だ。
「本当だ…平成最後の夏、締められていないじゃん!」
これはいよいよ何を締めにパフェを喰らうのかわからなくなった。前後に並ぶ人間は酒を嗜んだようでフワフワしているが、私と彼は素面で、本当に純粋にパフェを食べに来た人になっている。特に固執するほどパフェ好きでもないのにパフェを求め続けているのが可笑しくて2人でくつくつ笑う。深夜のテンションと言うべきなのか、何かヘンテコなスイッチが入ってしまって笑いが止まらない。
「今日は平成最後の秋を祝う会だね」
「そうだねえ、秋を祝う会だ!めでたい!」
平成最後なんて付ければ趣深くなるみたいな短絡的な考え方もたまには楽しいかもしれないと今だけは思える気がする。
未だに先が見えないまま店前に立ち、夜風に晒される。何もないけど楽しいというのは幸せかもしれない。
思えば私は夏に恋をしない人間だった。