不在の時間

地球の裏側に恋人がいるということを未だに自覚しきれない自分がいる。

わたしは日本から出たことがないし、外国の話は少しお伽話じみて聞こえてしまう。アメリカとか韓国とかフランスとか、話には聞くし想像も出来るけれどそれが実在してるとはあまり思えない。

かつてわたしが北海道から出たことがなかった時は「京都」でさえ夢じみたものだった。

ただただ小説に散りばめられた言葉を頭の中で組み立てて、あとはテレビや雑誌で見たことがあった場面を継ぎ貼りした。そのくらい世界が狭い時もあった。

初めて北海道を出たのは12歳の時だから、北海道しか知らない自分はまだ人生の半分を占めている。他都府県の人からは考えられないようなことなんだろうな。牢獄のような世界に出口があるとは思わなかったし、求めてもいなかった。

 

恋人は異国で揉まれて疲弊しているみたいだった。いつもよりも連絡が多くて「会いたい」という言葉を隅々に散りばめている。隙があれば電話をしてくれるし、私よりも彼の方が危篤なんだという気分になる。

やらなきゃならないことは山のようにあるし、かといってバイトは休みが多くて収入が不安だし、少しずつ確実に眠れなくなってきた気がする。わたしも大変だけれど、今までも同じように半年生きてきたのだから誤魔化して生きていけるような気もしていた。

恋人は言語の壁がある世界でたった一人放り込まれている。その状況を考えただけで可哀想に思えてしまう。唯一電波で繋がった私だけを救いに生きているのかと思うと、こんなに可愛い生物はこの世にいただろうかと胸の奥から笑みが溢れてしまいそうなくらい。恋人をわたしだけのものにしてしまったみたいで、非常に悪趣味だけれど嬉しさしかなかった。

 

毎日彼のためにしたためる言葉は付箋紙に書き連ねられ壁に並んでいる。もう13枚目になるだろうか。数えると少なくてガッカリした気持ちになる。

 

 

 

今までのわたしは恋人と会わなくても平気だと思っていた。近くに住んでいるなら最悪ひと月に1回は会わなきゃかなあと考えるくらい。心の中に相手がいるなら大丈夫だと思っていた。

でも今のわたしはあれから歳を重ねたというのにもっとずっと好きな人と一緒にいたいと思っている。今の恋人だからなのか、そうじゃないのかはわからないけれど。

 

 

小さい頃は地球の裏側のことを考える日が来るとはおもわなかったよ。