寒くなって、自分と他との境界線がより鮮明になってきた。薬を飲むと目眩のように世界が閉じる。夜が来た、という感覚がない。
大勢がいるところは煩くて、あとは少し目線が気になって、どうしても鼓動が早くなってしまう。全く知らない人とならまだマシなのに。微妙に馴染んでしまった世界が1番苦手かもしれない。
仲良い友達が、美容液やハンドクリームや、日々の活力をくれる。わたしは過剰にそういったものを肌に重ねながら安心したフリをする。わたしはまだ大丈夫。そう思わなくちゃ息も吸えない。
家を出るために顔を洗う。
化粧水と乳液で肌を整える。下地、ファンデーションを塗る。眉毛を整える。アイシャドウを乗せる。ビューラーで睫毛を上げて、マスカラを塗る。申し訳程度に目尻にアイラインを差す。鼻を中心にハイライトを乗せて、チークも馴染ませる。
一旦休憩してご飯を食べる。最近は大抵食パンを焼いたもの。
食べ終えたら着替え始める。ヒートテックに80デニールほどの厚いタイツ、その上からいつも着ているようななんの変哲もない服を重ねる。寒くはない。
歯を磨いて、やっとリップを塗る。自分を殺さない程度の赤い色が好き。
髪の毛はどうせ結んだりなんだりしちゃうから内巻きのストレートで取り敢えず妥協。時間があれば波巻きしたり。
ここまでしてやっと家から出る準備が整う。時間は1時間ほどかかってしまう。わたしがマイペースなのか、丁寧すぎるのか。
時間をかけて作っても「やっぱりこの色の方がよかったかなあ」なんて考え出して、1日の気分を台無しにしてしまうことの方が多い。
持ち物に忘れ物はないか?
ここまで来てやっと家から出られる。朝から葛藤することが多い。毎日ある1モデルの繰り返しをすればいいのだけれど、気分とか化粧ノリは毎日変わるから、同じ日なんて1つもないのだと思う。
朝起きて、恋人がわたしに向かってかわいいねと甘い言葉をくれるだけで、布団の呪縛は強いものになるし、
朝起きて、窓からの冷たい空気に背中が晒されて心の充電が0だったりすることもある。
最適で最高でいつもどおりなんて、結局存在しない。人は一生懸命、いつも違う日常を生きている。
わたしも何処かで誰かに心配されているんだろうなあと、じんわり感じている。
ただその心配に対して「大丈夫!」と答える元気はまだ無い。匿名からの心配だから、もしかしたら誰かの気まぐれなのかもしれない。
そんな気まぐれも支えにしてしまうほど、今の自分は脆くて危ういのかもしれない。