毒薬

「全ての物事は言葉1つで表せるのかもしれないけれど、内包しているものは個々において若干の意味が違うものなのだから、私は言葉を組み合わせてお互いが同じものを示せるように努めなければならないと思います。」

という言葉を飛行機の中で雲を眺めながら思い浮かべた。なんとなく、彼への手紙に添えようと思った。その言葉がどんな意味を指しているのかわからなかったけれど。

 

もっと自分に我儘に生きられたら良いのに。それなら、私ももう少しは楽に生きられたのだと思う。

他人の言葉を受け止めて、受け止め切れもしないのに受け止めて、駄目になった途端に被害者面をしてしまうのだから最悪な人間だ。

文章を、言葉を重んじていると思い切っていたけれど、実際は全くそんなことはなくて、ただただ言語をうまく操れないままだった。

好きなことを好きと言えない、嫌なことを嫌と言えない。死ぬときに「なぜこんな簡単なことも言えなかったのだろう」と嘆く姿を今から想像できる。

 

自分の人生に大きな引け目があって(ただこれは私の中で回避しようがない問題だとは思うのだけれど)、そこが亀裂となって少しずつ少しずつわたしの個人的な幸せが壊れていってしまう。あの時も出来なかったのだから今も出来ないでしょう、なんて自分で暗示をかけてしまう。怖くて怖くて人に相談したところで相手もその亀裂から私を攻撃する。元は私が悪いのだから、と思うと何も言えなくなってしまう。

 

私の心の隙間は決して人に相談なんかしちゃいけないんだと思う。正しく伝わってしまったときは必ず悲しいことが起こる。

 

「こんなこと言うくらいなら無理してまで人の頼みを聞くべきではなかったよね。私が断ったところで別の人に助けられてると思うし。これからは後からこんな愚痴言わないようにちゃんと自分の都合優先してちゃんと断ろう」と友人が言ってるのを見てすごく納得してしまったし、今まさに私もそうなんだ、という気持ちになった。自分のことを文字で表現するのはとてつもなく難しい。

痴漢じゃないけれど、何も酷いことをしていない人間も加害者のように見えてきてしまって、周りが何もかも薄暗い。私だって、わたしだってもう少し人を信頼したい。

 

あまり人を嫌いたくないから蓋を被せて無かったことにしたいけれど、その空白は残念ながら死を示していて、嫌うことよりももっと残酷なことなのかもしれない。

私は許すべきなのかな。