胃薬

あれから1年が経った。当時は常に胃が痛くて仕方がなかった。

胃が痛いとみぞおちの部分に軽く握った拳を押し当てないと何も出来なかった。抑えると胃の感覚が薄れるのか若干マシになるみたいだった。

 

今一体彼は何をしているのだろう。彼というのは彼氏である。彼氏といっても今の人ではなく昔の人のことを指す。

「まあもう昔のことなんですけどね」の一言で片付けることも出来るけれど、きっとそんなことも出来ない。意地悪だから。

友人には面白おかしくプレゼントのセンスが無いと一刀両断したら振られたというように言っているけれど、実際そうでないのだ。きっと。結局彼は振った理由をまともに教えてくれなかったし、そんな彼に私が百年の恋も冷めてしまったと言っても過言ではない。全てが悪かった。

もし今あの頃に戻れたとしても戻りたくはないと思う。

 

別れてから共通の友人と話すと毎回のように彼のネタでいじられた。私はそれに対してあははと笑うだけで、ブランド名だけに惹かれる人間だったとか何かと自分が顔の良いことを自慢するだとかセックスが上手くはないだとかは言わなかった。酒の勢いに任せて言ったこともあったかもしれないけれど。

話しているうちに友人の方がよっぽど良い男だったんじゃないかと思ったから、私の男を見る目が無さすぎることは明らかだった。よくよく考えると友人だって私の恋人には適していないのだ。

 

こうやってうつらうつらと微睡むみたいに昔のことを書き連ねていると、張本人にこの文章がバレてしまうのではないかと閉口してしまう。でもバレて「なんだこれは、名誉毀損だ」と彼から連絡が来てしまったら、それは私の勝ちになってしまうと思う。申し訳ないけれど勝ちだなあ。

どんなに足掻いても私が彼の黒歴史になってしまう。これほどの勝ちはあるだろうか?

 

顔は好みだけれど蓋をあけると全てが崩壊している女と付き合っていたという過去が彼にこびりついているというのは非常に楽しいと思う。

どうかこのまま一生黒歴史として傷痕が残って仕舞えば良いと思う。

 

 

人間の人間らしいところは言葉でコミュニケーションが取れるところだ。嫌だったら嫌、好きだったら好きと言えばいい。

最初から最後まで何も言わないでいたのはただの怠惰だし赤ちゃんだったよ。お守りをしなくて良くなったのは喜ばしいことだなあと思う。

 

ただ一つ考えるのは描きかけの横顔をどう処理しようということである。