シンデレラ

23時51分を指す時計を見て、ハッと我に帰る。

今日は久々に中学時代の友人と会っていたのですっかり時が経つのを忘れてしまっていたけれど、私の門限は24時で、今すぐ友人宅から出ないと間に合いそうになかった。

「最近門限が24時になってしまったんだよねえ」と愛想笑いをくっつけて皆に告げる。毎年会っているメンツなのでアッサリと別れの挨拶を終える。「良いお年を」

 

帰路について数秒すると、先程閉じた扉からカチャリと施錠の音が聞こえる。1年を忘れるための宴も、もう終わってしまった。

 

本当は皆に言おうと思っていた。親子関係が良くないこと。なんなら死んでしまおうかとさえ思っていること。そのせいで何も将来を考えられないこと。

大学受験の際に足踏みをした私は、同い年の彼らとは少し出遅れていて、だからこそこの段階で弱音を吐くのを躊躇われた。皆楽しそうな話をしていたし、空気が壊れるのは嫌だった。そのせいで幾つか吐かなくていい嘘を零した。

 

帰り道は、走らなきゃ間に合わない訳でもないのに走ったりなんかした。悲しさで呼吸が乱れているのか、走っているから下手になってしまっているのか、曖昧にするために。

お酒もよくのんだはずなのに、なんだか全くまわっていないような気がした。世界に自分だけ孤独な気がした。孤独だけれど、それを誰かにわかられたらそれはそれで嫌なのだろう。

 

頑張って間に合わそうと切り落とした指は今更になって痛みを呼んで、血まで流れてきた。それでも選ばれたいから履いた靴は手放せなかった。

 

家に向かえば向かうほど夜の闇が深くなっていて、早く家に帰らないと何もかもが見えなくなってしまう気がした。でも家に着いたところで安心する何かは無いし、私はまた布団を被って泣くしか出来ないのだろう。それを考えると、咳だか嗚咽だかわからない何かが込み上げてきた。

 

 

家に帰ると何食わぬ顔で家族が集合していて、それを見て私はなんだかうんざりしてしまった。少しくらい家を出たら実家のありがたみがわかるのだろうけれど、何一ついいと思えないコミュニティに参加し続けることが賢明だとは思えない。シンデレラは灰を被ってコツコツ徳を溜めてきたらしいけれど、私はどうもそういう努力が苦手みたいだった。

 

 

時刻はそろそろ24時で、今年の最後の日が始まろうとしている。

それを横目に、私は微かに溜息をついた。自分が幸せになる方法を理解しきっていないみたいだった。