雨とローファー

雨の中を歩くのは好きで、ポツポツと雨が傘を叩く音を聴くのは、誰とも交わらなくても許されるようで安心した。

雨が降ればみんな傘の中に引きこもる。

どんなに仲が良くても、傘と傘との間には埋めがたい隙間がある。ハリネズミのジレンマならぬ、傘のジレンマ。私は一人だから何も苦ではないけれど。

雨の日は1人で歩くのもあまり気にならなかった。

 

 

高校時代から履いてきたローファーは、もう履き潰しすぎていて皮もダメになっているらしく、蝦夷梅雨みたいなしつこい水気に参ってしまっている。そろそろお別れしなきゃかな。

 

ローファーは絶対黒。

周りの女の子の茶色く艶やかに光るローファーに憧れたこともあったけれど、私は黒が似合うのだ。次を選ぶ時もやっぱり黒を選ぶだろう。

ローファーをこの歳になっても履くのは、制服時代の何かに今でも囚われているからなのかしら、と ふと思った。真偽はよくわからなかった。

 

 

靴下がひたひたになりながらも、歩く。歩く以外の手段がない。

かれこれ10年以上は傘を使っているのに、どうやら使い方が下手らしく、いつも鞄やら服やらを濡らしている。将来わたしと結婚するのは傘がさすのが上手い人だといいなあ。

雨は少し肌寒くさせて、人恋しくするからダメ。

今日は蒸し暑いだろうからと薄めのカーディガンを羽織ってきたけれど、23時を回った今は十分冷えてきていた。太陽の力は偉大だったのだと、太陽の恩恵が届かなくなってから思う。

 

 

ふと思い立ってきになるあの人に電話をかけてみる。いきなりなんて普段かけないから、絶対でないだろうと、自分に念を押した。

長いコール音が続いた後にふつっと無音が響いた。ああやっぱり相手は忙しいのだろうな。そうがっかりした瞬間に「もしもし?」とあの声が聞こえた。

かけといてなんだけど、特に話す内容もなかったのだった。自分でかけておいて、自分でふふと笑ってしまう。

電話の向こう側では眠そうな声で必死に伝達事項を尋ねようとしているのに、私は 踏みしめるほど惨めになっていく靴の具合のことを考えていた。

決して大事じゃないわけじゃないよ。

 

 

 

 

 

家について濡れた服を脱いで、下着だけの姿で布団に潜り込む。7月だというのに、未だに布団は手放せない。

微睡みながら、部屋に漏れてくる雨音に耳を澄ませる。遠くで高速道路が鳴いていた。

 

そういえばあの時一緒に食べたアイスが美味しかったなあ、と思ったくらいに意識がふわっと飛んでしまっていた。

朝はすぐやってくる。