なにもないこと

電車にゆらゆら揺られて今日もまた今日を繰り返す。目を閉じたらいつのまにか時が経ってしまうのだから、眠くても必死に車窓に齧り付く。目的地に着いたからといって何かあるわけでもないのだけど。

 

この間まで雨が酷くて、大学までの道のりにある小さな川が今までで一番かさを増していた。橋を渡る時、わたしは絶対川を覗くのだけど、他人に増水のことを話すと知らないふうだったので、普通の人は川なんか見ないんだと思った。

 

学校の小さな小さな祭りで、違う場所で出し物をしていた同期に「お疲れ様」と話しかけた。その子は俯いて展示していた何かを必死に見ながら「おつかれさま」と口だけ動かした。わたしのことがあまり好きじゃないのは勝手だけど、態度にまで出すのは感じ悪いなあと思った。わたしのことを嫌っていたあの子みたいだなあと思う。どの世界にもあの子はいるんだなあ。

 

アーティストの真似事をすると、自分を切り貼りしなきゃならなくてなんだかくすぐったい。みんな口々にいう。「わかってほしいけどわかってほしくない」。わたしだけじゃないんだとほっとした。だけどあまりにも他人に伝わらないのは見てさえ貰えないから具合が悪い。今日も塗っては消して、貼っては剥がしての毎日。水彩画のように一発で決めなきゃならない芸術をしている人はすごい。

 

朝起きて、顔を洗って、着替えをして、鏡を見つめて自分を作る。顔に何かを塗るのに抵抗がなくなってしまった。寧ろ何もしないほうが怖くて家も出れなかった。新しく買ったファンデーション、勧められたままに買ったけど本当に合うのか少し心配だ。化粧品を日々使っているけど、この子達にも消費期限とかいうものがあるんだよなあ。もしかしたら化粧品は良くてもわたし自身がもう期限切れかもしれない。そう思うといつのまにか目の周りがよれてしまっていて、いつまで経っても化粧が終わらなかった。

 

当たり前に周りに恋人がいて、友人がいて、なんだかみんなすごいことをしているなと思う。私には恋人はいないし、友人も、いるんだろうか。最近人間に親切にしている気がしないから、友人も消えてしまったのではないかと思う。人と話しても疲れてしまう、言いたいことが伝わらない、口が回らない、わたしじゃなくて別の何かにならないとやっていけない。

みんなにみえているのはわたしと見せかけて私じゃない。

 

この前ゼミ室でうっかり泣いてしまった時に丁度よく先輩が部屋に入ってきた。そのあと少しいなくなったのでそのうちに目を冷やした。

先輩が帰ってきたときに自分のご飯を脇に抱えていたのだけど、そのなかからプリンを私に差し出してくれた。

道外から来た先輩は「北海道民の優しさは他府県と違って居心地がいい」というようなことを言っていたけれど、私は先輩の優しさにまた涙が出そうになった。