酒と共に回る後悔

元彼に呼び出されてお酒を飲んでいる。

連休中の安さが売りの居酒屋で出されるお酒は、薄くて炭酸も抜けていて、とてもじゃないけれど飲めたものじゃなかった。2人は苦笑いをしながら胃に流し込む。

 

1人2品オーダーのお店なので2人で小さなメニューを覗き込む。目の前にいる元彼との後に付き合っていた彼がアヒージョを好んでいたのを思い出して私はそっとそれを指差す。元彼はアヒージョの意味を知るはずもなくて、それはなんだか秘密めいていて、私も大人になったのだなと思った。

 

案の定お店の中は客が混み合っていて、衝立すらない空間は一気に声で満たされてしまう。元彼が自嘲気味な笑顔を浮かべてなにか口を動かしているけれど、全く伝わらず、テーブルに身を乗り出して耳を傾ける。

「俺の何が悪かったのかなあ」

そんな潜ませるほどの話題じゃなかったから、態々身を乗り出したのを恥ずかしく思う。呼び出された時に言われたのだが、彼は私と別れた後に付き合った彼女との3年の交際を終えたらしかった。私が彼と別れたのは性格の不一致だとかそういうものではなかったから、少し考え込んだ。考えてから、この空間でも伝わるように、いつもより音量を上げて口にする。

「あなたの何が悪かったというよりかは、環境の問題だと思うよ。この歳になると、進路とか色々あるでしょう」

彼はやっぱり浮かない顔をして「そうかなあ」と声にならない声を放った。

白い指が不味いお酒に伸びて、それを彼の口元へ運ぶ。身体を観察する度に美しい人間だなあと思う。声を大にしては言わないけれど、私は彼の容姿が好きで一目惚れをしたみたいなところがあった。

「3年も付き合ったことがなかったから、振られると穴が空いたような気になるなあ」

4年前から服装とか髪型も変わってしまった彼を見ながら、なんでも人に合わそうとするような人間だったことを思い出す。彼の欠点といえばそこだった。

「相手の好みに合わせようとするからダメなんだよ。自分の人生なんだし、自分を持たなきゃ」

 

思えば彼が大学に進学したのだって、私が引っ張ったみたいなところがあるし、そういう点では私は彼に申し訳なく思う。彼は本当はそんなところなんて来たくなかったのだと思う。大学に行かなければ今こうして振られたことを愚痴るなんてなかっただろう。

2人は周りの喧騒に紛れて沈黙する。時々パラパラと中身のない話をして笑う。

 

結局私は彼に「私のせいで回り道をしたのでしょう」と聞くことができなかった。

私の方が明らかにお酒が弱いのに、2人とも同じペースで飲み物を注文するのが妙に歯痒かった。