最悪

「痛い」と思ったら、炬燵の中で折り畳まれている脚が過剰に暖められて火傷になる手前のようだった。自分がここまでぼうっとしていたのは初めてで戸惑ってしまう。慌てて炬燵の電源を切ろうとすると、炬燵の上に置いていたマグカップが傾いて池を作っている。今日の牡羊座の運勢は12位なのだろうと思う。

 

 

何故こうも無気力なのかというと、私の目の前にあるプリンの空容器のせいである。

「賞味期限も差し迫っていることだし…」と思い安易に手を出したら、購入者である同居人の男に物凄く怒鳴られてしまった。「明日買ってきてあげるから」と言っても「自分で買って冷蔵庫で育ててから食べるのが好きなんだ」と超理論を唱えられた。そんな変態くさいこと、知らないわよ。

このプリンは家から徒歩3分、おでんが美味しいと評判のコンビニに常備してあるような定番のもの。こんなもの、誰が先に食べようか構わないじゃないかと思ってしまう。食費は折半しているし、なんなら1個しか買わなかった彼奴が悪い。

 

当の本人は怒りが収まらないらしくお風呂セットを持ってアパートを飛び出した。なんとなく行き先は分かっているのだけれど「どこにいくの」とぶっきらぼうに訊いたら「銭湯!」と針を刺すみたいな鋭い返しがきた。条件反射的に反抗期の男の子かなと思ってしまい思わず口角を上げると、嫌そうに目を細めて私を睨んできた。返す顔を準備する前に、颯爽と部屋から飛び出して行ってしまった。

 

好きというよりかは、愛着が湧いてしまって惰性で一緒にいるのかしら。どちらも1人暮らしだったから、長く付き合ううちに利害の一致で同じベッドに寝るようになってしまった。終わりもよくわからないまま、お互い学生である間は良いだろうともたれかかっている。就職しても続ける意味は無いだろうと勝手に思っているけれど、どうせ相手もそんなことを考えているだろうから、明言はしなかった。

 

炬燵布団はあっという間にルイボスティーの香ばしい匂いを醸しながら茶色く染まっている。これは、彼奴が帰ってきたら怒られるぞ。益々嫌な気分になった。

最近の私はだらしなさに磨きがかかり、日々男の小言を受信している。脱いだ服は洗濯籠に、食べ終わったお茶碗は水につけておく、洗濯物は洗ってすぐ干す。聞き飽きたのでもうある程度覚えてしまった。覚えたからやるのかと言われると、それは微妙だけれど。

 

 

思考が停止して少しすると、玄関の方でゴソゴソ音が聞こえる。帰ってきたみたいだった。

私は反省したような顔をしようと極力努力した。努力していると見せかけて、本当は何もしていないし、状況は悪化しているだけだった。ふざけた顔の女が1人、ルイボスティーが沁みた布団の前に居るだけだった。

 

男がコンビニの袋に包まれたプリン2個を携えたまま溜息を吐いたのはその数秒後で、私は多分だらしない自分をこれから一生後悔するのだろうと刹那思ったりしていた。