愛玩動物

最近は男の家に居つくことが多いので、男の匂いをよく嗅ぐようになった。洗濯も洗髪も男のものと一緒にしてしまうので、私の服や髪も微かに男の匂いに近づいてきた。

ひさびさに家に帰ってパジャマに着替えたり布団に潜ると「あれ」と小さい疑問が頭を支配してしまう。こんな他人みたいな匂いをしていたっけ。そこで私は見知った家で1人になる。当然男の家にいるときも他人の家だなあとおもうのだから、私はいよいよ自分の場所を失ってしまったようだった。家にいても居心地の悪さはあったし、それは今に始まった事ではないけれど、いよいよ本格的に孤立が始まってしまったのだと思った。

姉や弟はきちんと各々の地で一人暮らしをして1年が経とうとしているのだから、孤独はもう感じないのだろう。それに各々自分の家があるのだし。でも私は、男に飼われているような状況で、尚且つ家にも帰らないで、やることと言えば人より過剰に寝てしまうくらいで情けなくなってしまう。

 

家でも男の家でもそうだけれど、家主が余裕がなくて少しピリついたような雰囲気の時は何も言わず目を伏せておどおどしてしまう。殴られたことなんかないのに「殴られるんじゃないか」なんて考えてしまう。私の悪いところを並べて腕に針をプスプス刺していくようなそんな行為をされてしまうのじゃないかと息が出来なくなる。

自分に余裕がなくなると都合よく気分が悪くなる。貧血のようなソレは繊細なガラス細工を打ち砕くのにはピッタリな材料で、言ってしまえば「そうやっていつも逃げるよね」の一言で収められてしまう。それを想像してもっともっと気持ち悪くなってしまう。

 

笑い事じゃなく心配なのは、男が自分の父に似ていることだ。

 

今は良くても少しずつ息苦しくなってお互いに疲れてしまうんだろうと思う。私が向き合う気力を無くしてしまうと「お前がそんなんだから叱りたくなるんだ」と言われるんじゃないかと思っている。

 

小説の登場人物になぞらえて「普通の人と結婚しないマドンナは自殺しちゃうんだから、私も自殺しちゃうかもね」と口にすると、「そんな気がする」と返された。

上手く生きていく自信がない。

 

どこに行っても甘やかされて育てられて結局何もしていないのは私なのだから結局愛玩動物よろしく可愛く生きるしかないのだけれど、それが自分の首を絞めていることにそろそろ気付くべきだ。

私には到底敵うはずがないことを意地悪で言われて、悲しくなってしまうような自分では死んでしまう。