ヌラヌラした夏だね

溶けるような暑さ。

比喩じゃなくて本当に溶けてしまいそうだと思う。表皮にふつふつと汗が湧き出て、自分の輪郭がぬらぬらして曖昧になる。

 

そりゃ汗で塗れるのは快適とは言えないけれど、以前よりは不快に感じなくなった。

経験を積んでこんなものだと納得してしまったからなのか、それとも、私が生まれた時のぬらぬらしたのを身体がようやく思い出したのか。ぬらぬらしながらも最小限の布だけ纏って歩くのは人間が人間たる所以だ、なんて適当に考えた。暑いと頭が働かない。

寒い時は一生懸命曲を聴きながら寒さを紛らわすのだけど、暑い時に曲を聴いて歩くのは逆効果な気がした。首元にかかるコードが不快だからだろうか。

 

こんな暑い日にも制服を纏う高校生。

暑さに耐えられずJRに飛び乗るや否や、氷菓をシャクシャクと口にする。ああいいな。

嫌に歳をとってしまったから、そんなことはしたないかしらと躊躇ってしまう。私の乗る電車は田舎のそれなので、飲食がダメだとか、そういったものはないと思う。匂いが強いものは勘弁してくれとおもうけれど、良識の範囲内であれば何も言われることはなかった。

車内の人間の視線が少女の方に向けられていることに気づいたのか、少し目を伏せた。その顔は真っ赤だった。暑さなのか恥ずかしさなのかはわからなかったけれど、綺麗に赤くなっているので、桃のようだった。

 

みずみずしくて、うんと冷えた桃を、胃に収めたい。そして体内の熱を少しでも冷ましたい。ついでに汗として流れ出た水分を補いたい。

 

ふとそんな欲望に駆られた。気付くとそれはどうにも耐え難いものに変わる。生憎先ほどまで飲んでいたジャスミン茶は空だ。

電車はもう出発してしまって、小1時間はこのまま耐えなければならない。少女の頬を横目に、私は唾を飲んで耐え凌ぐ。少女の額からぷくりと湧き出た汗でさえ美味しそうに見えた。

 

これは、駅に着いたら何か甘くて冷たくて美味しいものを飲まなくては。

大人な私は金に物を言わせるという手段に出ようと思いつく。財布の中は心許なかったけれど、1000円程は余裕があるだろう。

何かを飲もうと決めた途端に心の奥がスーッとした気がする。単に電車の冷房が効いてきただけなのだけど。

 

もしかしてこのタイミングがピーチピンクフラペチーノの出番じゃなかろうか?

女子大生らしい思考をしてしまって少し恥ずかしくなる。思い立ったが吉日。私の胃はすっかりフラペチーノの気分になってしまった。