健康であれば、

 

もう燃えるような恋はしないのだろうなと思う。

破滅しかない恋愛の方が嫌でも心に刻まれるから好きで、でも望むから得られるものでもなくて、自分の時間を結局は意味のないことに費やしてしまうほど若くもなくなってしまった。

 

今は十分幸せで、この人となら一生そばに居られるんじゃないかと思うのに、その人と破滅的な恋は出来ないのだと考えると悲しく思う。

きっと私が何らかの事故で亡くなって、あの人が一人になっても、心の中に私はいないんじゃないかと思う。数年悲しんだとしても、すぐにいい人を捕まえて私のことを忘れるんじゃないかと思う。そういう健康な人が好きだし、そういう人だから一緒にいられるんだと思う。

 

挑戦的でなくなってしまった自分が好きではないし、こうなる前に早く死んでしまった方が豊かな人生なんじゃないかと思う。保守的で進歩が見られないような自分が嫌いだ。

 

 

私が少し残酷なことを言うとちょっと引いたような顔をする。一緒に生きられるからといって同じ考えを抱くわけではないらしい。映画の話になって、ハッピーエンドな方が好きだという恋人に少しうんざりした。うんざりという表現が正しいのかはわからないけれど、一緒に死んではくれない人だなと思った。

かといって私と同じ不健康な人だと上手くはいかないんだろうなと思う。

 

毎日楽しいけれど、背中にはいつもそういった寂しさが張り付いていて、振りほどこうにも振りほどき方がわからなくて困る。飲み会の帰りの、いたって虚無な気持ちのように、何をするにもわたしの地獄がわたしを冷ます。

こうされたら嬉しいんだろうなという気持ちでしか動けなくて、心の底から優しい人を少し妬んでしまう。わたしもあなたに優しくしてるのにな、あの人よりも評価してくれないよね。なんて言えるわけない。

 

 

もう少し穏やかで健康で優しい人間でありたかったな。思い返すと随分小さい頃からこういう性格だった気がするから、生まれた時点でもうハズレだったんだろうな。

 

ふかふかの布団に優しく包まれてじっとしていたい。何も考えずボーっとしていられるような環境で、深く深く眠っていたい。なにとも比べず、比べられず、電波が届かない山奥みたいなところで、世界を知らず横になっていたい。

 

どうするのがいいのか、わるいのか、よくわからないけれど、少しずつ冷めていったお湯に浸かっているような微妙な不快感を抱きながら、今日も目を開けて必死に周りを観察してそれらしい振る舞いをするしかないのだろうな。