動悸

授業を受けていたら、不意に心臓が高鳴って苦しかった。今まで動悸で苦しいと云う意味がわからなかったけれど、成る程何もしていないのに疲れることを態々しているみたいだった。

 

昔、高校生の頃だけれど、机に好きな曲の歌詞を書いたりした。勿論良識があるのでシャープペンシルで。

without the light in dark

but I feel the deepest emotions

わかるひとにはわかる、MAN WITH A MISSION(以下mwam)という狼の覆面をつけたバンドの「emotions」という曲。

私がロックを聴くようになったのはこのmwamのお陰で、高校生のその時期は丁度彼らに物凄くはまっていたときだった。

 

私の高校は大学を模したかったのか単位制で、1年生の時から移動教室が多々あった。落書きは私の机にした、といってもみんなと共有のものだったのだ。まあ書いてる内容は歌詞だし、そんなに恥ずかしいと思わず、移動する前に消したりなんかせずにいた。

 

いつだったかその落書きに矢印を添えてコメントが書かれていた。「いい言葉だね」みたいな感じだったと思う。私はすごくびっくりして犯人は誰かと探ったりした。犯人はすぐに特定できて、それがクラスで女子にいじられていたりなんかする、頭が良くて顔の整った控えめな男の子だったことを知ったときはなんだか言葉にできなかった。

だって少女漫画みたいじゃないか。

男の子に耐性のある女の子ならなんにも思わないのだろうけど、私はそうじゃなかったからなんだかドギマギしてしまった。落書きに対してコメントをしたらそれは好意だとは言わないけれど、シチュエーションが嫌に物語じみていて少し煩わしかった。

 

確か私はコメントに対して何も言わなかった気がする。社交性のある人間なら矢印を添えて返事をしていたのかもしれないけれど、私はそういった人間じゃなかった。

消しゴムで歌詞ごと全部綺麗に消してしまった気がする。

 

相手は多分高校時代に落書きを見つけて言葉を残したことを全く覚えて無いんだろうと思う。ただ、私の中にだけ残っていて、きっとそれは私の言葉や文章の端々から漏れだすのだ。

私が気にかけた全てを、周りの人間も気にかけているわけじゃないのだ。

 

なんてことを授業中にふと思って、少し笑えてしまった。彼に恋した訳では無いけれど、そういうふとした出来事による胸の高鳴りは一生覚えているのだと思う。

みんなは私を忘れるかもしれないけれど、私は忘れることなんてできないんだと思う。